「実家をどうするか、そのうち決めよう」と思っているうちに3年経っていた。空き家のご相談では、これがいちばん多い話です。
決められない理由ははっきりしていて、比べるための数字が揃っていないからです。不動産屋に聞けば「売りましょう」と言われ、リフォーム会社に聞けば「貸しましょう」と言われる。立場が違えば答えも違うので、聞くほど迷います。
なのでここでは、何を数えれば決められるのかを書きます。
3つの選択肢にかかるお金
1. 持ち続ける(管理する)
出ていくお金:固定資産税・都市計画税/火災保険料/電気・水道の基本料金/草刈りや巡回の費用。
入ってくるお金:なし。
この選択肢の落とし穴は、金額が小さく見えることです。年10万円なら耐えられる気がしますが、10年で100万円、しかも建物は確実に傷んでいきます。放置して管理不全空家として勧告を受ければ、土地の固定資産税は最大6倍になります。
それでも「まだ気持ちの整理がつかない」という理由でこれを選ぶのは、私はおかしくないと思っています。ただし、いくらかかっているかは知っておいてください。
2. 貸す
出ていくお金:貸せる状態にするための工事費(ここが一番大きい)/管理委託料/入退去のたびの原状回復費/固定資産税/火災保険。
入ってくるお金:家賃。ただし空室の月はゼロ。
おおよその目安で数字を置いてみます。
- 戸建ての家賃はおおむね8万円前後。ただし築年数と状態で上下します
- 管理を委託すると、家賃の5%程度。どこまでを任せるかで変わります
- 長く空いていた家を「貸せる状態」にする工事は、150〜250万円ほど。水回り一式(ユニットバスの交換だけで100万円前後、給湯器20万円、洗面台15万円)と内装を入れた場合の目安です
この数字で単純に計算すると、家賃8万円なら年96万円。管理料5%を引いて年約91万円。工事費200万円なら2〜3年で回収できることになります。悪くない、と見えます。
試算から抜けているもの
- 空室の月は収入がゼロです。年間ずっと埋まる前提では計算できません
- 貸している間に大きな修繕が来ます。屋根・外壁は数百万円規模。給湯器も10年前後で寿命です。工事費を回収し終える前に、次の工事が来ます
- 退去のたびに原状回復費がかかります
- そもそも150〜250万円で8万円取れる状態になるとは限りません。傷みが進んでいれば、もっとかかります
だから現場では、「そこまでリフォーム費用をかけるなら、売ってしまったほうが」という結論になることのほうが多いのです。ただ、これは物件によります。立地がよく手を入れる範囲が小さい家なら、貸したほうが得になることもあります。
もうひとつ。相続した空き家を貸すと、3,000万円の特別控除が使えなくなります。売る可能性が少しでもあるなら、貸す前に必ず確認してください。
3. 売る(仲介または買取)
出ていくお金:仲介手数料/登記費用/場合により解体費や測量費/譲渡所得税。
入ってくるお金:売却代金。そして以降の支出がすべて止まります。
ここで効くのが税制です。要件に当てはまれば譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。手取りが大きく変わるので、税金を計算に入れずに「安いから売らない」と決めるのは早計です。
仲介と買取の違いは、時間と金額のどちらを取るかです。買取は市場価格より下がりますが、買主を探す期間がなく、契約不適合責任の心配も基本的にありません。仲介は高く売れる可能性がある代わりに、時間がかかります。
考える順番
多くの方は「貸せるかな、いくらで貸せるかな」から考え始めます。しかし順番はこうです。
- いくらで売れるのかを先に知る。これが全ての基準になります。売却額が分からないと、貸した場合の何年分に相当するのかも、持ち続ける費用が高いのか安いのかも判断できません
- 貸すのに何が必要かを知る。工事費の概算と、その地域の家賃相場。ここで初めて「何年で回収できるか」が出ます
- 持ち続ける費用を年額で出す。税・保険・管理費を合計して、10年分を並べてみる
この3つが並んで初めて比較になります。1番を飛ばして2番から考えると、比較の基準がないまま話が進むので、いつまでも決まりません。
兄弟で話し合うとき
相続した実家で揉めるとき、原因はたいてい金額が分からないことにあります。「二束三文だ」と言う人と「そんなはずはない」と言う人が、根拠なしに話し合っても平行線です。数字がひとつ出るだけで、話はかなり前に進みます。
私たちは西尾市で売買仲介・買取・賃貸管理・空家管理のすべてを扱っています。どの結論になっても対応できる立場なので、「売らせるために売却を勧める」必要がありません。貸したほうがいい物件にはそうお伝えします。
決めてからご相談いただく必要はありません。決められないうちに聞いてください。そのほうが選べる手が多く残っています。
※本記事は一般的な考え方の整理です。実際の費用や税額は物件の状態と個別の事情によります。税金の判断は税理士にもご確認ください。



