オーナー・賃貸経営

西尾市の賃貸の原状回復|オーナーが負担する範囲と敷金の精算

2026/10/26 公開 石川 智士

アパートや貸家の退去時に揉めないよう、国土交通省のガイドラインと民法621条・622条の2をもとに、貸主が負担する範囲、特約が争われる条件、入居時の写真と立会い、見積の取り方、敷金の精算までを整理します。

退去後に敷金の精算書を送ったら、借主から「納得できない」と返ってきた。国民生活センターは、賃貸住宅の原状回復トラブルの相談が2025年度に14,711件あったと公表しています(PIO-NETの登録件数、2026年5月31日現在)。

揉める背景には、どこまでが借主の負担かという物差しのずれがあります。国土交通省のガイドラインと民法を物差しに、負担の範囲、特約、記録と見積、敷金の精算を確認します。個々の請求の勝ち負けは述べません。

原状回復は、入居前の状態に戻すことではありません

国土交通省のガイドラインは、原状回復を、借主の故意・過失、善管注意義務違反、通常の使用を超える使用による損耗や毀損の復旧と定義し、借りた当時の状態に戻すものではないと明確にしています。経年変化と通常の使用による損耗の修繕費は、賃料に含まれるという整理です。民法第621条も、通常の使用および収益による損耗と経年変化を除いた損傷について、賃貸借の終了時に原状に復する義務を負うと定めています。

区分

負担

ガイドライン別表の例

経年変化・通常の使用による損耗

貸主

家具の設置跡、日照によるクロスの変色、冷蔵庫裏の壁の黒ずみ

次の入居者のための化粧直し

貸主

破損のない畳の表替え、網戸の張替え

故意・過失、善管注意義務違反、通常を超える使用

借主

落書き、結露を放置したカビ、喫煙による変色や臭い

表の例は一般的なもので、最終的には契約内容と使用状況で個別に判断されます。次の入居者のための張替えや設備交換は貸主の負担と割り切り、収支に最初から入れておくほうが揉めにくいと考えられます。

借主負担でも、請求できるのは全額ではありません

ガイドラインは、年数が長いほど借主の負担割合を減らす考え方です。参考資料の計算例では、新品のクロスで入居して3年で退去すれば負担は50%、耐用年数の6年を過ぎれば1円(ほぼ0%)です。襖紙、障子紙、畳表やフローリングの部分補修は、経過年数を考慮しません。

範囲は毀損した部分の最低限の単位で、クロスは㎡単位が望ましく、やむを得ない場合は毀損箇所を含む一面分までです。部屋全体の張替えを借主の負担とするのは妥当ではないと書かれています(喫煙などで居室全体が変色したり臭ったりしている場合を除く)。築年数のたった部屋の全面張替えを全額請求する運用は、見直したほうがよいでしょう。

特約は、3つの条件がそろわないと争われます

一般的な原状回復を超える負担を借主に課す特約も、契約自由の原則から設けられます。ただしガイドラインは、次の要件を満たさないと効力を争われると注意しています。

  • 必要性があり、暴利的でないなど、客観的で合理的な理由があること
  • 借主が、通常の義務を超える負担を負うと認識していること
  • 借主が、その負担を負う意思表示をしていること

ガイドラインが紹介する最高裁判例は、借主が負担する通常損耗の範囲が契約書に具体的に明記されているか、口頭の説明で明確に合意されていることを求めています。「原状回復は借主が行う」とだけの条項では、足りない可能性が高いと考えられます。クリーニング特約でも、2万5000円(税別)の専門業者清掃が明確に合意されていたとして有効とされた裁判例がある一方、「ルームクリーニング費用は借主負担」とだけの特約を、通常損耗の負担まで定めたものとは言えないとした裁判例があります。金額と範囲を書き、契約時に説明して署名をもらいます。

入居時の写真、退去時の立会い、見積の明細が精算の証拠になります

ガイドラインは、原状回復を退去時だけでなく入居時の問題としても捉えるよう勧めています。入居時と退去時に貸主と借主が立ち会い、チェックリストで部位ごとに確認し、写真も使うのが望ましいとされます。貸主にできるのは、募集前の空室を部位ごとに撮影し、交換した年月もチェックリストに書くことです。いつ張り替えたか分からないと、経過年数の計算が止まります。

退去時は、修繕が必要な箇所をその場で伝えるのが基本です。国民生活センターのページには、立会いでは原状回復が必要な箇所はないと言われたのに、後日、床の傷の修繕費用を求められたという相談事例があります。立会いで触れなかった傷を後から請求すれば、争いになりやすいでしょう。確認リストへの署名も、損傷の確認だけなら費用負担の了承とは言えないと考えられる、とガイドラインのQ&Aにあります。署名欄に、確認か合意かを書き分けてください。

見積は、ガイドラインの精算明細書の様式例に沿い、部位ごとに単価、数量、経過年数、貸主と借主の負担割合を分けます。借主の負担になりうる損傷と化粧直しは別の行にし、元の仕様より上の材料は貸主負担の行にします。貸主には敷金から差し引く費用の説明義務があり、借主は明細を請求できるとされるので、最初から明細を付けて送るほうが早く済みます。管理会社に退去精算を任せているなら、立会いの記録と見積の内訳を書面で受け取ってください。管理会社の選び方は費用を比べた記事にあります。

敷金は、借主の債務を引いた残額を返します

民法第622条の2は、賃貸借が終わって賃貸物の返還を受けたとき、受け取った敷金から借主の金銭債務の額を引いた残額を返すよう貸主に求めています。借主が債務を履行しないとき、貸主は敷金を弁済に充てられますが、借主から充当を請求することはできません。精算書には、敷金の額、差し引く項目と金額、返金額を並べてください。

話し合いで決着しない場合、60万円以下の金銭請求なら少額訴訟があり、原則1回の審理で、証拠は審理の日にその場で調べられるものに限られます。借主は、消費者ホットライン188で消費生活センター等を案内してもらえると国民生活センターは案内しています。

西尾市でアパートや貸家を持つ方は、次の退去の前に、募集前の写真、チェックリスト、見積の様式、契約書の特約欄を点検しておくと、精算書の根拠がそろいます。

参考資料

制度・窓口情報は2026年10月11日時点で確認しています。個別の手続きは担当窓口や専門家にご確認ください。

この記事を書いた人

石川 智士

株式会社JA.life 代表取締役/宅地建物取引士・空き家マイスター・2級FP技能士

愛知県西尾市の株式会社JA.life 代表取締役。宅地建物取引業免許 愛知県知事(1)第25912号。 西尾市・三河エリアを中心に、不動産の売買仲介、買取、賃貸管理、空家・空地の管理を行っています。

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