アパートや貸家を、入居者が住んだまま売ることをオーナーチェンジと呼びます。売却を考えると、入居者は出る必要があるのか、預かった敷金はどうするのか、管理会社にいつ伝えるのかと、確認事項が一度に増えます。
ここでは売主の確認事項に絞ります。管理会社の選び方や替え方は別の記事に任せ、売却と重なる部分だけを順に見ます。
入居者がいても売れます。賃貸人の地位は買主に移ります
賃貸中の建物を売っても、入居者が退去する必要はありません。借地借家法31条は、建物の賃貸借は、登記がなくても引渡しがあれば、その後に物権を取得した人に対して効力を持つと定めています。
民法605条の2第1項は、対抗要件を備えた賃借人がいる不動産が譲渡されたとき、賃貸人の地位は譲受人に移ると定めています。条文に、賃借人の承諾を条件とする文言はありません。
例外は同条2項で、賃貸人の地位を売主に残し、買主から売主が借りて入居者に貸すと合意した場合は、地位が移りません。この形を持ちかけられたら、専門家に契約書を見てもらってください。
同条3項も外せません。所有権移転の登記をしていないと、賃貸人の地位の移転を賃借人に主張できません。決済日と登記の予定日を確かめ、家賃の受取りを切り替える日を決めておきます。
敷金は買主が引き継ぎます。金額と精算方法を売買契約で決めます
民法605条の2第4項は、賃貸人の地位が移ると、敷金の返還義務と、入居者が必要費・有益費を支出した場合の償還義務を買主が承継すると定めています。敷金は、賃貸借が終わって部屋の返還を受けたとき、未払いの賃料などを引いた残額を返すお金です(622条の2第1項)。
返還の責任は買主に移っても、敷金そのものは売主が預かっています。受け渡しを決めておかないと、買主が退去時に全額を負担する形になります。部屋ごとの預り額の一覧は、売主から先に出すのが筋でしょう。
契約で決める項目 | 決める内容 |
|---|---|
敷金 | 部屋ごとの預り額、買主へ渡す方法と日 |
当月分の家賃 | 決済日を境にした日割りの計算方法 |
滞納家賃 | 売主と買主のどちらが回収し、受け取るか |
費用の償還 | 入居者が修繕費を立て替えた部屋の有無と、その扱い |
買主に渡す書類は、収支が組み立てられる形にそろえます
国土交通省は賃貸住宅標準契約書を、紛争を防ぐためのひな形として公表しています。使用は法令で義務づけられていませんが、手元の契約書で賃料、敷金、期間、特約の位置を確かめる目安になります。
- 全部屋の賃貸借契約書と、更新や家賃改定の合意書
- 入居者ごとの家賃の入金記録と、滞納の有無
- 敷金の預り一覧
- 修繕と設備交換の履歴、見積書・請求書
- 管理委託契約書と、直近の収支報告
- 固定資産税の納税通知書、火災保険の証券
買主は、書類から年間の収支を組み立てると考えて準備します。口頭の取り決めがあれば、これも書き出しておきます。見られるのは、実際の入金額、空室、引かれる費用です。満室時の想定家賃は、入金記録がなければ評価されにくくなります。
次の表は架空の例です。4戸のアパートで、家賃は1戸月5万円、1戸が空室。管理委託料は賃料の5%とし、費用額もすべて仮定で、実在の物件の数字ではありません。
項目(年額) | 満室想定 | 現状の入金 |
|---|---|---|
家賃収入 | 240万円 | 180万円 |
管理委託料(5%) | 12万円 | 9万円 |
固定資産税など | 20万円 | 20万円 |
修繕・保険 | 15万円 | 15万円 |
差し引き | 193万円 | 136万円 |
空室1戸の影響は、収入で年60万円、費用を引いて年57万円です。右の列が実績で、左の列を買主に見てもらえるかは、空室の理由と募集の履歴を説明できるかにかかります。
管理会社への連絡と入居者への通知は、決済日から逆算します
管理委託契約は、売主と管理会社の間の契約です。売却が決まりそうなら伝えておきます。買主が管理会社を続けるかどうかで、手続きが変わるからです。
国土交通省の賃貸住宅管理業法ポータルサイトのよくある質問には、オーナーチェンジで管理受託契約が従前と同じ内容で承継される場合でも、管理業者は地位の移転を認識した後、遅滞なく、新しい賃貸人に契約内容が分かる書類を交付することが望ましい、とあります。早く伝えれば、管理会社も書類を準備できます。
契約を続けるかは買主との取り決めです。終わらせる場合の予告期間や費用は、管理委託契約書で先に確かめます。引継ぎ書類は管理会社を替えるサインの記事に、買主が管理会社を比べる見方は費用比較の記事にあります。
入居者への通知には、新しい貸主の名前、家賃の振込先、連絡先、切り替わる日を入れます。承諾を求める書類ではなく、変更を知らせる書面です。登記の前に振込先を変えると、入居者がどちらへ払うか迷うので、決済日と登記の見通しが立ってから作ります。
空室にして売るなら、退去の進め方と費用を別に考えます
先に出てもらってから売りたい方もいますが、貸主の都合での退去は簡単ではありません。借地借家法27条は、貸主が解約を申し入れると申入れの日から6か月で終了すると定めます。一方で28条は、その申入れは正当の事由があると認められる場合でなければできないとしています。
正当の事由は、双方が建物を使う事情のほか、これまでの経過、建物の利用状況と現況、立退料などの申出を考慮して判断されます。売りたいという理由だけで通るとは限らず、退去を前提に売却の日程を組むのは危険です。
項目 | 入居者がいるまま売る | 空室にして売る |
|---|---|---|
買主 | 賃貸を続ける前提の人が中心 | 自分で住む人も候補になる |
売主の作業 | 書類の整理、敷金の精算、入居者への通知 | 退去の交渉と待ち時間、清掃や原状回復 |
家賃収入 | 決済日まで入る | 退去後は入らない |
国税庁はタックスアンサー「譲渡費用となるもの」で、貸家を売るため借家人に明け渡してもらうときの立退料を譲渡費用の例に挙げています。税額は個別の事情で変わるので、税務署か税理士に確認してください。
まず入居者がいる前提で査定を取り、空室にする案はその後に比べるのが順当です。賃貸中のままと空室の2通りで聞けば比較できます(査定書の見方)。西尾市で入居者のいるアパートや貸家を売るなら、賃貸借契約書と入金記録を集め、敷金の預り額を部屋ごとに書き出すところから始めてください。
参考資料
- e-Gov法令検索「民法」
- e-Gov法令検索「借地借家法」
- 国土交通省「賃貸住宅標準契約書について」
- 国土交通省「賃貸住宅管理業法ポータルサイト よくある質問」
- 国税庁「No.3255 譲渡費用となるもの」
制度・窓口情報は2026年10月11日時点で確認しています。個別の手続きは担当窓口や専門家にご確認ください。



