親が亡くなり、実家の名義はそのまま。兄弟で「長男が引き継ぐ」と話はついたのに、協議書を作ろうとすると、土地と建物の書き方や必要な印鑑で手が止まる。そんな場面を想定して書いています。
先に一つ。法務局の登記手続ハンドブックには、法務局は遺産の分け方や協議書の作成の相談に応じられない、と書かれています。ここでは、法務局の手引きと記載例で確認できた範囲、つまり協議書の不動産の書き方と相続登記の書類に絞ります。文面を決める段階では、司法書士か弁護士に見てもらってください。
協議書は、相続人全員の話し合いの結果を登記に使える形にした書面です
相続人が複数いると、遺産分割までは不動産は相続人の共有です(民法898条)。法務省は、共有のままだと管理や処分を相続人同士で決める必要があり、次の世代の相続が重なると権利関係も複雑になるとして、早めの遺産分割を呼びかけています。
共同相続人は、遺言で禁じられている場合などを除き、いつでも協議で遺産を分けられます(民法907条1項)。その結果を書面にしたものが協議書で、相続登記では、相続の原因を示す書類として添付します。
遺産分割協議書の不動産は、登記事項証明書のとおりに書きます
法務局の協議書の例は、不動産を子の1人が単独で相続するケースです。文面は、亡くなった日と被相続人の住所・氏名、共同相続人全員の氏名、不動産を誰が単独で相続するか、協議書の通数と各自が保有すること、日付と相続人全員の住所、氏名、実印、そして「記」の下の不動産の表示、の順に並びます。
不動産の表示は、登記事項証明書に記録されているとおりに書きます。登記申請書の不動産欄がそう案内されていて、協議書の例も同じ項目です。普段使っている住所ではなく、登記上の表示を写してください。
種類 | 書く項目 |
|---|---|
土地 | 所在、地番、地目、地積 |
建物 | 所在、家屋番号、種類、構造、床面積 |
土地と建物は別々に書きます。分譲マンションは敷地権付きの区分建物として登記されている場合があり、記載の形が変わるので、ハンドブックの該当の項か司法書士に確認してください。
日付は2つあります。協議書の日付は話し合いがまとまった日ですが、登記申請書の「原因」には、協議の成立日ではなく亡くなった日を書くと、記載例は注意しています。ただし、記載例には「協議の結果に応じて作成してください」とあり、なぞれば有効になるひな形ではありません。
不動産のみの協議書も作れますが、持分で分けるなら共有を続ける決断になります
遺産の一部だけを分けることも、民法907条1項は認めています。実家の土地建物だけを先に決める協議は成り立ちます。ただ、その協議書で決まるのは書いた不動産だけです。預貯金などは別に協議するか書き足すことになるので、最初に不動産以外の財産も洗い出しておくと、話し合い直す手間が減ります。
法務局の記載例は、1人が単独で相続する場合だけです。共有で取得するときの持分の書き方の記載例は、今回確認した法務局の資料にありませんでした。公式の例がないので、この記事は文面を示しません。
書き方より先に、共有にするかを決めてください。共有にすると、売却のたびに共有者の意見をそろえる必要が出ます。兄弟の共有については兄弟の共有名義の実家を売る進め方で整理しています。売る予定があるなら、誰が取得し、誰が売却の窓口になるかを協議の段階で話しておくと、後で止まりにくくなります。
協議書には実印を押して印鑑証明書を添え、相続登記の書類をそろえます
協議書には、相続人全員が印鑑証明書と同じ印(実印)を押し、印鑑証明書を添えます。作成後3か月以内といった制限はなく、登記を申請する相続人本人の分は除く、という注記もあります。誰の分が要るかは、申請前に確認してください。
遺産分割協議による相続登記で、法務局が示している主な書類は次のとおりです。ほかにも必要な書類が出る場合があります。
書類 | 備考 |
|---|---|
被相続人の出生から死亡までの戸籍、除籍、改製原戸籍 | 在籍していたすべてが必要 |
被相続人の住民票の除票または戸籍の附票 | 登記上の住所が本籍と異なるとき |
相続人全員の戸籍謄本(抄本) | 亡くなった日以降に発行されたもの |
遺産分割協議書、相続人全員の印鑑証明書 | 協議書に押した印のもの |
不動産を取得する相続人の住民票 | マイナンバーの記載がないもの |
固定資産課税明細書 | 申請する日の属する年度のもの |
登記申請書、相続関係説明図 | 説明図は戸籍原本の返却が不要なら不要 |
2026年10月5日以降に申請する場合の記載例では、申請書に登記名義人となる方の国籍等を書き、国籍を証する情報を添付情報に挙げています。日本国籍の方は、相続人であることが分かる戸籍で足りるとされています。戸籍の束は、法定相続情報一覧図の写しで代えられる場合があります。遺言書がある場合は、書類の組み合わせが変わります。
協議がまとまらないときは家庭裁判所へ、売却は協議を終えてからです
協議が調わないときは、各相続人が家庭裁判所に分割を請求できます(民法907条2項)。裁判所の案内では、遺産分割調停は相続人の1人または数人が、他の相続人全員を相手方として申し立てます。調停が不成立になると、審判の手続が自動的に始まり、裁判官が審判をします。
売却を考えているなら、協議が終わらないと、誰の名義で売るのかが決まりません。名義が亡くなった方のままだと売買契約を進められないことは、相続登記の義務と期限に書きました。価格の目安を知るだけの査定なら、協議と並行して進められます。最初の一歩は、登記事項証明書を取り、不動産の表示と名義を確かめることです。
参考資料
- 法務局「登記申請手続のご案内(相続登記①/遺産分割協議編)」(登記手続ハンドブック)
- 法務局「相続による所有権の登記の申請に必要な書類とその入手先等」
- 法務局「所有権移転登記申請書(相続・遺産分割)記載例(令和8年10月5日以降に申請する場合)」
- 法務省「不動産を相続した方へ ~相続登記・遺産分割を進めましょう~」
- 裁判所「遺産分割調停」
- e-Gov法令検索「民法」(第898条・第907条)
制度・窓口情報は2026年10月13日時点で確認しています。個別の手続きは担当窓口や専門家にご確認ください。




